だし醤油のつくり手を訪ねて「三河白だし」「八方だし」とは

愛知県碧南市　日東醸造　三河白だし

水を求めて辿り着いた味

素材と生かし合うだし醤油を目指した「三河白だし」のものづくりは、素材のみならず、商品すべてに通じる「水」を探すところから始まりました。

汁物画像

日東醸造は、1938年に創業した醤油蔵。つまりお醤油屋さんです。しかし醤油は醤油でも、専門は「白醤油」。小麦を原料とした琥珀色の醤油のことです。和食の照りやツヤを重視する料理屋さんの求めに応じて製造が始まりました。

日東醸造は、白だしを製造する工場と、原料となる「しろたまり」の仕込み蔵が、なんと車で1時間半も離れた場所にあります。これには理由がありました。豊かな自然環境、昔ながらの技法、自然の原料だけでものづくりをしたい。そんな思いで、山里の廃校になった校舎を借り受けて杉樽を入れ、山に湧く井戸水を使って醤油を仕込んでいるのです。

そしてだしの原料は枕崎産一本釣りの本かつお、道南産の真昆布、地元・愛知県産のしいたけと、どれも料亭で使うほどの上質な原料ばかり。前頁でお話をうかがった伊東さんは素材選びについて「一番近くにいる生産者のもの、という基準を最も大切にした」と教えてくれました。地元の馴染みの問屋さんが馴染みの生産者から手に入れたもの。どんな人がつくっているのかは全部分かる、というのが「三河白だし」の身上。しかもかつお、昆布、しいたけの性質はすべて違う、という思いのもと、ひとつの釜で煮出すのではなく、すべて別々に煮出して風味が飛ばないようにすぐ冷まし、そこで初めて合わせるという手間をかけています。

「私たちの強みは嘘がなく、まっすぐなこと。いつ誰が工場に来ていただいても大丈夫！」と、伊東さん。「三河白だし」は手間ひまを惜しまず、まっすぐに素材の旨さと向き合ってきた会社の自信作です。

醤油作り方画像
合わせだしから出るアクは、すべて人の手でていねいに取り除かれます。加熱中はほぼつきっきりの作業です。

白だし画像
地元の井戸水、小麦、杉樽で仕込んだしろたまりと自家製のだしを合わせた白だし。そのまま薄めてお吸い物に、お料理の隠し味に、と幅広く使えます。

香川県小豆島町　正金醤油　八方だし

家庭のだし醤油と同じ製法、同じ手間

らでぃっしゅぼーやのロングセラーであり、全国にファンを持つだし醤油の名品です。
ていねいな仕事がつくりだす、味の秘密を探ります。

鍋画像

「八方だし」のふるさとは、香川県の小豆島。塩、そうめん、オリーブなど、名産品の多い美しい島です。とりわけ「醤（ひしお）の島」といわれるほど、上質な塩と温暖な気候を生かしてつくられる醤油は、昔から島の自慢でもありました。

この島で1920年から杉樽で醤油を仕込んでいるのが「八方だし」の生みの親、正金醤油です。昔ながらの杉樽で、国産の素材を使い、小豆島の気候に任せて人為的な温度調整をしない醤油づくりは、もちろん素晴らしい醤油をつくることができますが、その手間ひまは大変なもの。醤油づくりに欠かせない「蔵に棲む菌」を大切に守るためには細やかな管理が必要ですし、油分を含む丸大豆は搾りにくく、搾るだけで丸2日かかります。常に蔵の状態を整えるのは並大抵の労力ではできません。

そうして1年以上の熟成を経て生まれた醤油に自社で素材から煮出しただしを合わせてつくられるのが「八方だし」です。さてそのおいしさの秘訣とは？「だしを自分で煮出して醤油と合わせる。つまり家庭でつくるだし醤油と同じです」とは、正金醤油4代目の藤井泰人さん。こちらもだしエキスは一切使いません。「その方がおいしいから」というシンプルな理由です。

かつお節は鹿児島県産の荒本節、昆布は利尻昆布、いりこは地元の名産地・香川県伊吹島産のものを使用。伊吹島のいりこは臭みがなく、味に品があるといわれる名品です。佃煮屋さんがだしがらをもらいにくるほど、素材のよさは折り紙付き。その名の通りたった1本で、手軽に和食の味が出せる八方だしはシンプルな食材を、伝統の味に変えてくれる一品です。

もろみ蔵画像
国の登録有形文化財にも指定されている、120年の歴史を持つもろみ蔵。